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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)2629号 判決 1988年7月28日

原告

河野且尚

被告

芝真由美

主文

1  被告は原告に対し、金二四六万一九九一円及び内金二二一万一九九一円に対する昭和五九年七月七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の、その余を被告の負担とする。

4  この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金八九五万一七九〇円及び内金八五五万一七九〇円に対する昭和五九年七月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

被告は、昭和五九年七月七日午前零時五分ころ、普通乗用自動車(なにわ五五そ五三三四号、以下「被告車」という。)を運転して大阪市浪速区日本橋三丁目五番二九号先道路を西から東に向かつて走行中、自車をその前方で停止した原告運転の普通貨物自動車(和泉四〇て五六七七号、以下「原告車」という。)に追突させた(以下「本件事故」という。)。

2  責任

被告は、被告車を運転し、前記道路を原告車に追従して東進していたのであるから、前方を注視し、原告車が停止した場合、速やかに自車を停止させ、原告車に追突することを未然に防止すべき注意義務があつたものである。しかるに、被告は、前方に対する注視不十分のまま自車を運転した過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、原告が本件事故によつて被つた後記損害を賠償する責任がある。

3  原告の受傷、治療経過及び後遺障害

原告は、本件事故により頭部外傷Ⅰ型、外傷性頸部症候群、腰椎捻挫、両側頸神経根損傷の傷害を受け、昭和五九年七月七日から昭和六〇年一月一二日まで富永脳神経外科病院に通院(実日数一二九日)して治療を受けたが、原告の右傷害は、結局完治せず、昭和六〇年一月一二日、頸椎レントゲン検査上第四、第五椎体間に不安定性、腰椎レントゲン検査上軽度の側湾傾向があり、脳波一〇―一一CPSα波、拇指球第五、第六頸神経、第四腰神経から第一区神経にかけての筋電図上の異常、大後頭神経、大耳介後神経、肩甲上神経、前斜角筋部、傍腰椎部両側性放散圧痛、ジヤクソンテスト、スパーリングテスト陽性、両上肢腱反射やや低下、両下肢、両膝蓋腱反射浅弱、両前腕手指、左下腿足部の知覚鈍麻、ラビツグサイン陽性、平衡機能検査上の障害といつた他覚的所見を伴う頭痛、頸項部痛、腰部痛、耳閉感、眼性疲労、複視、両下肢のしびれ、手指のしびれと痛み、頭重感、眩暈といつた障害を残存させてその症状が固定するに至つた。原告の右後遺障害は、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)の後遺障害等級認定においては、自動車損害賠償保障法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)第一四級一〇号(「局部に神経症状を残すもの」)に該当するものとされたが、等級表第一二級一二号(「局部に頑固な神経症状を残すもの」)に該当するものである。

4  損害

(一) 治療費 金八万〇九一〇円

原告は、前記症状固定後も混合性頭痛、脳底椎骨動脈不全、腰痛、大後頭神経痛、右膝関節炎、瘢痕拘縮(頸)の治療のため富永脳神経外科病院に昭和六〇年四月四日から昭和六一年六月二七日まで通院(実日数六九日)し、この間の治療費として金八万〇九一〇円を要した。

(二) 通院交通費 金一〇万六九二〇円

原告は、前記富永脳神経外科病院への通院交通費として一日当たり金五四〇円を要し、昭和五九年七月七日から昭和六〇年一月一二日までの一二九日間に合計六万九六六〇円の、同年四月四日から昭和六一年六月二七日までの六九日間に合計三万七二六〇円の通院交通費を要した。

(三) 休業損害 金三九三万一二三〇円

原告は、本件事故当時、各種冷凍、冷蔵機械の販売、備付け、修理を業とし、一か月金七八万四〇〇〇円の収入を得ていたものであるが、そのための経費として三〇パーセントを要したので、一か月の純利益は金五四万八八〇〇円であつた。しかるところ、原告は、本件事故による傷害のため七か月七日の間休業せざるを得ず、合計金三九三万一二三〇円の得べかりし利益を得られなかつた。

(四) 逸失利益 金九八万六四〇〇円

原告の後遺障害の内容・程度は前記のとおりであるから、原告の後遺障害による労働能力喪失率は五パーセント、労働能力喪失期間は三年間を下回るものではない。そして、原告が本件事故当時に得ていた利益の額は前記のとおりであるから、後遺障害による逸失利益の額は金九八万六四〇〇円となる。

(五) 営業廃止による損害 金三八五万二三四〇円

原告は、本件事故による傷害のため前記営業を継続することができず、営業を廃止した。そのため、在庫品二五点(合計金二一〇万七〇〇〇円相当)及び機械工具類四六点(合計金二〇九万五三四〇円相当)が不要となつたが、これらをスクラツプとして売却すれば金三五万円を得られるので、その差額である金三八五万二三四〇円の損害を被つた。

(六) 慰謝料 金一六八万円

原告が本件事故により被つた精神的、肉体的苦痛を慰謝するに足る慰謝料の額は、金一六八万円を下るものではない。

(七) 弁護士費用 金四〇万円

原告は、本訴の提起及び追行を弁護士である原告訴訟代理人に委任し、その費用及び報酬として金四〇万円の支払を約した。

5  損害の填補

原告は、被告車の自賠責保険から金七五万円の保険金の支払を、被告から金一三三万六〇一〇円の支払を受けた。

6  結論

よつて、原告は被告に対し、4(一)ないし(六)の合計額から5の既払額を控除し、これに4(七)の弁護士費用を加えた金八九五万一七九〇円の損害賠償金及び弁護士費用を除く内金八五五万一七九〇円に対する不法行為の日である昭和五九年七月七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1、2の事実は認める。

2  同3の事実中、原告が本件事故によりその主張のような傷害を受け、その主張のように病院に通院して治療を受けたこと、原告が自賠責保険の後遺障害等級認定において、等級表第一四級一〇号に該当するものとされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同4の事実は否認する。

4  同5の事実は認める。

第三証拠

本件記録中の書証及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  事故の発生及び責任

請求の原因1、2の事実は当事者間に争いがない。したがつて、被告は原告に対し、民法七〇九条に基づき、原告が本件事故によつて被つた損害を賠償する責任がある。

二  原告の受傷、治療経過及び後遺障害

原告が本件事故により頭部外傷Ⅰ型、外傷性頸部症候群、腰椎捻挫、両側頸神経根損傷の傷害を受け、昭和五九年七月七日から昭和六〇年一月一二日まで富永脳神経外科病院に通院(実日数一二九日)して治療を受けたことは当事者間に争いがなく、原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証、第三号証の一、二、成立に争いのない同第一二、第一八号証、乙第二号証の一ないし七、第三ないし第七号証、第九号証の一、二、第一〇(原本の存在とも)、第一一、第一二(原本の存在とも)号証、被告主張どおりの写真であることに争いのない検乙第一、第二号証、証人犬塚楢夫の証言、原・被告各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠は存在しない。

1  本件事故は、交差点手前で信号待ちをしていて対面信号が青色に変つたので発進した原告車が、交差道路を信号無視して進行してくる単車があつたので、交差点に進入して停止したところ、原告車の後方で信号待ちをしていて対面信号が青色に変つたので原告車に続いて発進した被告車が、被告の脇見運転により時速約一〇ないし二〇キロメートルの速度で原告車に追突したというもので、追突された原告車の損傷は、後部バンパーの凹損を中心とする修理代六万九二六〇円程度の軽微なものにすぎず、被告車に乗つていた四名の女性は本件事故により何らの傷害を受けることもなかつた。

2  原告は、本件事故の当日、頭痛・腰痛・項部痛・眩暈を訴えて富永脳神経外科病院を訪れ、診察を受けたが、頭部及び頸部のレントゲン検査上、著変はなく、頸椎の第三ないし第五番に若干の角湾形成が認められたものの、それはいわば人間の背中が少し曲がつているといつた程度のものにすぎず、それが本件事故によつて生じたものか、他の要因によつて生じたものか判然としないものであつた。また、この際原告には神経学的な所見も認められず、この時点での医師の診断は、頭部外傷Ⅰ型・外傷性頸部症候群・腰椎捻挫により加療約二週間を要するというもので、医師は、原告に湿布処置をして薬物を投与した程度で入院させることなく帰宅を許し、以後昭和六〇年一月一二日までの六か月余にわたり入院の必要性を認めることは一度もなかつた。

3  原告は、昭和六〇年一月一二日、富永脳神経外科病院の犬塚楢夫医師により同日をもつてその症状が固定した旨の診断を受けたが、これによれば、原告には、自覚症状として、頭部(頭重感を含む。)・頸部・腕部・腰部・両手指の痛み、両耳耳閉感、眼精疲労、両下肢及び両手肢のしびれ、眩暈があり、他覚所見として、頸椎レントゲン検査上第四、第五椎体間に不安定性が、腰椎レントゲン検査上軽度の側湾傾向が認められ、脳波はほぼ正常範囲、筋電図上拇指球筋、第五、第六頸神経、第四腰神経から第一仙神経にかけての神経の損傷がある程度考えられる異常所見、大後頭神経、大耳介後神経、肩甲上神経、前斜角筋部、傍腰椎部に両側性の強い放散圧痛が認められ、ジヤクソンテスト・スパーリングテスト・ラビツグサイン両側(各五〇度)陽性、腱反射両上肢やや低下、両下肢及び両膝蓋腱浅弱、両前腕手指及び左下腿足部に知覚鈍麻、平衡機能検査上開閉眼時とも障害が認められ、全体として、頸部・腰部の鈍痛が頑固に続き、多様な愁訴が続いているので、重度の労働にはかなりの支障を残すというものであつた。

4  前記富永脳神経外科病院における原告に対する治療は、当初は湿布、ビタミン注射、薬物投与などの比較的軽度のものであつたが、昭和五九年八月二八日には診断名に両側神経根(不全)損傷が加えられ、同年一〇月一六日、主治医が犬塚医師に交替してからは、両腕(殊に左腕)及び左足のしびれを原告が訴えたので、神経ブロツクを開始し、以後大後頭神経・肩甲上神経・腰椎傍神経根ブロツクをしばしば行つた。

5  原告の前記各部の圧痛は、昭和五九年一〇月一六日以降の犬塚医師が担当した加療期間中、継続して認められた。

6  原告は、富永脳神経外科病院への通院中、三回筋電図をとつたが、昭和五九年七月二七日、同年一〇月二二日のそれには異常がなく、同年一二月六日のそれには中等度の異常が認められ、また、同年一〇月末ころの脳波検査において、若干の不整がみられた。

7  犬塚医師は、昭和五九年一〇月三〇日、翌年一月末から軽作業であれば就労可能との判断のもとに原告に対し就業指導したが、本人が強い痛みを訴えたため成功しなかつた。

8  富永脳神経外科病院における加療中、原告の症状は、全体として昭和五九年一〇月一六日以降症状固定日まであまり改善されず、症状固定後も昭和六二年一〇月まで同病院に通院して診察を受けたが、これまた全体的にあまり改善されなかつた。犬塚医師は、以上のような診療の経過及び結果を踏まえ、原告の症状は、本件事故を引き金にして生じたもので、そのもとに、神経痛ないし交感神経系の異常をきたしやすいものがあつたのであろうと推測している。

9  原告は、昭和六一年四月二八日、複視及び近見障害を訴えて岩崎眼科内科病院(眼科)を訪れ、同年七月一〇日まで(実日数六日)同病院に通院して診察を受け、同日をもつて両眼調節障害・眼球運動障害の後遺障害が残存しているとの診断を受けた。しかし、右診断の基礎となつた検査において認められた原告の障害は、視力左右とも〇・九(裸眼・矯正とも)、調節力右眼三・〇ジオプトリー、左眼三・二五ジオプトリー、視野上方向右四五度、左五〇度、上外方向左右とも六〇度、外方向右八五度、左九〇度、外下方向左右とも九〇度下方向七〇度、下内方向左右とも六〇度、内方向左右とも六〇度、内上方向右六〇度、左五五度といつた程度のものにすぎず(前掲各証拠によれば、原告は、右検査時四四歳であると認められるところ、日本人の平均的調節力は、四〇歳で四ジオプトリー、五〇歳で一ジオプトリー程度のものであり、日本人の視野の平均値は、上方向六〇度、上外方向七五度、外方向九五度、外下方向八〇度、下方向七〇度、下内・内・内上方向各六〇度であることは経験則上明らかである。)、正面視及び左右上下視にて複視を生ずることを訴えるというもので、複視については回復の見込はあるが、調節力については回復の見込は難しいとの医師の診断であつた。

10  原告は、昭和六一年一一月四日及び同月一一日、済生会京都府病院(整形外科)において診断を受けたが、ここにおいても頭痛・ふらつき・飛ぶん症(眼科症状)・項部痛・左側上肢のしびれ感・腰痛を訴え、他覚的所見として、レントゲン検査上、第四、第五頸椎椎体に中等度の骨棘形成、第三、第四頸椎椎体の軽度の辷り、第二ないし第五腰椎の軽度の骨棘形成、左項部の軽度の腫脹、同部・両側僧帽筋部・左肩甲部・両側肩甲骨間・腰部傍脊椎筋(両側)の圧痛、頸椎部の運動時痛、前後屈時の腰痛が認められたが、筋電図所見は、両側につき、三角筋・第一指骨間筋・僧帽筋・内側広筋・前脛骨筋・腓腹筋の検索を行つたところ、両上下肢ともに明らかな神経学的異常所見が認められなかつた。

11  原告は、本件事故による後遺障害につき、自賠責保険の後遺障害等級認定において、等級表第一四級一〇号(「局部に神経症状を残すもの」)に該当するものとされた(この事実は当事者間に争いがない。)が、これを不服として異議の申立てをしたところ、顧問医の意見及び前記済生会京都府病院の診断結果をも参酌したうえで、眼球の調節機能障害については基準に至らず非該当、複視については治療経過、他覚的所見及び予後所見からみて非該当、頸部及び腰部の神経症状については、他覚的所見に乏しく、等級表第一四級一〇号に該当するとして、既認定を変更することはなかつた。

右の事実によれば、原告は、昭和六〇年一月一二日、局部に神経症状を残存させてその症状が固定するに至つたものと認められ、右後遺障害は、等級表第一四級一〇号に該当するものと認めるのが相当である。原告は、その後遺障害は等級表第一二級一二号に該当するものであると主張し、原告に極めて多彩な主訴のあつたことは前記のとおりである。しかし、右の主訴を裏づけるに足る他覚的所見の有無につき検討するに、前記の事実によれば、レントゲン所見上の異常は、本件事故によつて生じたものとまでは認められないうえ、いずれも軽度のものであり、脳波所見も、途中若干の不整はみられたものの、症状固定時には正常範囲内のものであり、筋電図所見も、四回の測定中三回目の測定に異常があつたものの、他の三回は異常が認められなかつたというのであるから、脳波及び筋電図所見上明白な異常があつたと認めることはできない。また、眼の症状は、本件事故から一年半余も経過してから眼科の診察を受けたもので、本件事故とのつながりも判然としないものであるうえ、眼球調節機能障害は極めて軽度のものであり、複視はその検査内容も判然としない他覚所見の裏づけを欠くものである。してみると、原告の主訴を裏づける確実な他覚的所見としては、前記のような神経学的な諸検査によるものが認められるだけであり、多彩な主訴に対比すると乏しい内容で、その症状は特に重いものとはいえず、原告主張の等級を認めるには足りないというべきである。

三  損害

1  治療費

原告は、前記症状固定後の昭和六〇年四月四日から昭和六一年六月二七日まで富永脳神経外科病院に通院して要した治療費も本件事故と相当因果関係のある損害であると主張するが、症状固定後の治療費が事故と相当因果関係のある損害といえるためには、一定の症状の発生を抑えるため治療が必要であるとか、将来一定の時期にならなければ治療を加えることができない等特段の事情が認められなければならないものというべきところ、本件においては、右のような事情を認めるに足りる証拠はないから、原告主張の治療費は本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

2  通院交通費

原告が昭和五九年七月七日から昭和六〇年一月一二日まで(実日数一二九日)富永脳神経外科病院に通院して治療を受けたことは前記のとおりであるところ、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、右通院のため一日当たり金五四〇円を要したことが認められるので、右の間の通院交通費は合計六万九六六〇円となる(なお、原告は、症状固定日後の通院交通費も請求するが、症状固定後の治療が本件事故と相当因果関係のないことは前記のとおりであるから、右の通院交通費も本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。)。

3  休業損害

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第四号証、第五号証の一、第六号証の一ないし三二、第七号証の一ないし一六、第八号証の一ないし一四、第九号証の一、二、第一〇号証の一ないし三、弁論の全趣旨及びこれにより真正に成立したものと認められる同第一四、第一五号証によれば、原告は、本件事故当時四二歳の健康な男子で、各種冷凍、冷蔵機械の販売、備付け、修理業を営み、昭和五八年五月から昭和五九年六月までの一四か月間に合計二二七三万二二〇〇円の営業収入を得ていたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。しかして、右の各証拠によれば、原告は、右の間の仕入代金として概ね合計一二〇〇万円を要したことが認められるものの、その余の経費としてどの程度の支出を要したかを的確に認定できるような証拠は存在しない。しかし、原告の右営業内容及び仕入代金等に照らせば、原告は、右の営業収入を得るにつき、経験則上仕入代金を含めて少なくとも七割の経費を要したものと推認するのが相当であり、これを控除した右の間の原告の営業利益は、金六八一万九六六〇円(月額四八万七一一九円)と認められる。そして、前記二において認定した原告の受傷の内容及び程度、治療経過、職業等に照らせば、原告は、本件事故による傷害のため、昭和五九年七月七日から同年一〇月三〇日までの一一六日間は休業せざるを得ず、同月三一日から昭和六〇年一月一二日までの七四日間は五〇パーセントその労働能力に制限を受けたものと認めるのが相当である。そこで、本件事故がなければ症状固定の日までに原告が得られた利益の額を算出すると、次の計算式のとおり、金二四八万四三〇七円となる。

487,119÷30×116+487,119÷30×74×0.5=2,484,307

4  逸失利益

前記認定の原告の後遺障害の内容・程度、職業、年齢等に照らせば、原告は、前記後遺障害により症状固定ののち二年間その労働能力を五パーセント喪失したものと認めるのが相当であり、原告が本件事故当時に得ていた利益の額は前記のとおりである。そこで、原告が右の間に失うことになる利益の総額からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して後遺障害による逸失利益の症状固定時における現価を算出すると、次の計算式のとおり、金五四万四〇三四円となる。

487,119×12×0.05×1.8614=544,034

5  営業廃止による損害

原告は、本件事故による傷害のため自己の営業を継続することができなくなつたとして、営業廃止による損害をも主張するが、原告の傷害及び後遺障害の内容及び程度、原告の職業は前記のとおりであつて、前記の限度で原告の労働能力の制限は認められるものの、いまだ営業を廃止せざるを得なかつたものとまでは認められず、他にこれを認めるに足る証拠もないから、原告主張の右損害は、本件事故と相当因果関係のある損害ということはできない。

6  慰謝料

原告が本件事故により被つた傷害及び後遺障害の内容・程度その他本件において認められる諸般の事情に照らせば、原告が本件事故により被つた精神的、肉体的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、金一二〇万円と認めるのが相当である。

7  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告は、本訴の提起及び追行を弁護士である原告訴訟代理人に委任し、その費用及び報酬として相当額の支払を約したことが認められるところ、このうち本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用は、金二五万円と認めるのが相当である。

四  損害の填補

請求の原因5の事実は当事者間に争いがない。

五  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、三2ないし4、6の合計額から四の既払額を控除し、これに三7の弁護士費用を加えた金二四六万一九九一円の損害賠償金及び弁護士費用を除く内金二二一万一九九一円に対する不法行為の日である昭和五九年七月七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山下満)

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